がんを治す完全ガイド  第22回
好きなことがいくつありますか?
 
 8年ぶりに焼きものの個展をやった。
 会場が、デパートの美術工芸ホールだったので、作品をたくさんつくらなくてはならなかった。大小取り混ぜて329点もつくった。といっても、いまどき大作がどんどん売れる世の中ではない。
できるだけ小物をたくさん……と心がけた。

 そこで思いついたのが、言葉と器を合体させることだった。物書きとしての私と、陶芸家としての私の両面を、同時に表現することはできないだろうか。器として美しいものをまずつくり、そこに装飾にもなる言葉を刻みつけてみよう、と私は考えた。飯碗、小皿、とっくり、ぐい呑みをたくさんつくった。やや、専門的に言うなら、それらをすべて“粉引き”でつくった。“粉引き”とは、原土の上に白い化粧土をかぶせる手法のことだ。この方法で字を書くと、彫った字は原土色になり、白い化粧土のなかから文字が浮かび上がってくる。
 字を書くタイミングが難しい。
粘土が乾きすぎると、字が書きづらいし、柔らかすぎると、べたついて、字が書けない。ほどほどに乾いた茶碗に、最初は私の好きな言葉から刻み始めた。
 たとえば、私が入院していたとき、しばしば心の中で咳いた。

 〈負けそう 負けそう でも 歩くしかない〉

 〈照る日 くもる日 いろいろあるさ。 またいいこともある〉

 〈人生には 何度も 何度も 再出発がある〉

 〈夜明けの来ない夜はない〉

 という言葉。おおむね、気持の弱った自分を励ます言葉だった。
そのうち、その手の言葉を書くのに倦きてきた。飯碗も、皿も、とっくりも、ぐい呑も、楽しい気分で口に運びたい食器である。だったら、楽しい言葉を書きつけたほうがいいのではないか。そう思うに至った。

 (よし、私の好きなことばかりを詩の形式で書いてみよう)

 そう決意して書き始めた。まず最初、グルメの私としては、食べ物のことから……。

 〈おいしいものはいいですね。セロリのゴマ油あえでワインを飲むのが好き。コルボというイタリアのワインが好き〉

 小皿だから長い詩は書けない。短詩である。しかし酒のことばかり書くのはまずい。甘いものも書いておくことにした。

 〈足利市に 古印というもなかがあるのご存じ?  あれおいしいネ わたしときどき半分に割って 食べるの。 全部食べたいけれど ふとるから我慢するの〉

 〈わたしはグルメ。 おいしいものが好き。 でも 器がいいともっとおいしい。 だから器を作りはじめたけれど 道は 遠いな まだまだ遠いな はるか遠いな。 でも 作るのだ〉

 なんていう謙虚な詩もある。

 書き始めたら、泉のごとく湧いてくる。次にご紹介するのは、食べ物に次いで私が愛する
 “花たち”の詩だ。

 〈わたしは チューリップの花が好き。 だって しあわせな形をしているもの。生まれてはじめて クレヨンを持ったとき わたしはチューリップと お日さまを描いたんだ。 赤いチューリップが好き〉

 〈むらさきの 花が好き。むらさきなら なんだって好き。 まず枯梗でしょ。 あれは毎年 かならず同じところに顔を出す。 アヤメ カキツバタ 都わすれ つゆ草。 みんな好き〉

 花の詩を書き始めたらキリがない。次は、私が今はまっている陶芸のこと。

 〈わたし 粘土に触るのが好き。 粘土はひやっとしているの。弾力がある。むちむちしている。無くなったわたしのおっばいみたい。ちょっとエロティック。 だから好き〉

 そうだ。私は本が好き。おしゃれが好き。男も好き。 それも書かなきゃ、と思う。

 〈本が好き。活字をひとつ、ひとつ、つまんで 食べて 飲み込んでしまいたいような本が好き〉

 〈本が好き 読むのが好き 他人が苦労して書いた本を ねそべって読むのが好き〉

 〈旅に出て ふと出会った服を買う。
     旅先で買うのが好き。
 買ってきて ベッドの前に吊るしておく。
   あれを着て こんど北海道に行くんだと思う。
すると元気がでるのよね〉

 〈若いといっても 五十くらいまでの氷川きよし みたいに 細っそりしていて まだどこかが少年で。シャイでこわれやすくてデリケートで  でも好きな女のためなら 死んでも守ってくれる人。好き〉


 詩の器は100個以上あるので、この辺でご紹介をやめる。
 私がお勧めしたいのは、あなたも “好きなこと” を全部書き抜いてみたら? ということだ。私はこれを書いてみて、いかにたくさん私には好きなことがあるのかということを知った。そういう人生を生きている。それを、大切にしょうと思った。