『これだけは言いたい』  第3回
大腸内視鏡検査について A

 ”尻われパンヅ” をはいて

 午前中トイレを奪いあった私たち男女8人は、午後もまた男女共学 (?) である,
銭湯でも、プールでも、脱衣場は男女別々が世の常識.なのに、ここでは、男女同室だ.患者に性別があることを、病院は失念しているらしい。もちろん、脱衣コーナーは、うすいドアで仕切られている。
しかし、目が遮られていれば、プライバシーがあるというものではない。いや、私などは目をふさがれると、耳や鼻、触覚、.空想力が、より鋭く、砦かになるたちだ。うすいドアから出てくる男性の検査着姿を、刺すような視線で見てしまう。
(それにしても、大腸内視鏡の検査着とは、世にも不思議な格好をしているものなんだなア……)
"股われパンツ"というものは見たことがあるが、"尻われパンツ″は、生まれて初めてだ。あんな服を着て、男の前を歩くのだけはごめん蒙りたい。死んでもいやだ。はずかしい。
 と思っているうちに、もっと恐ろしいことが起こった。私の2人前の女性が、ドアの中で、
「ウエストが入りませ一ん」
と叫んだのだ。看護師さんが飛んでいった。特大サイズの検査着を渡した。やがて、それを着て出てきた彼女は、まさに江戸城、松の廊下を歩く浅野内匠頭であった。ウエストを合わせれば、長さが合わない。長さを合わせれば、ウエストが合わない。ひたたれを蹴散らすように歩きながら、彼女は検査室へ消えていった。
居並ぶ男たちの前でその騒ぎだけは演じたくなかった。私は、あらかじめ2種類の検査着を借りた。
更衣室に入った。実はどのサイズも、合わなかったのだが、詳細は書きたくない。

 七転ハ倒。阿鼻叫喚の私

 次は検査室。
 "室"といっても、衝立のような仕切りがあるだけ。
「キャーッ」とか「痛い!」とか「やめてえ……」のすべてが、待っている人々に聞こえるしかけ。
私は、特に大袈裟な人間なので、ドアから出てきたときは、とても待っている人々の顔を見る勇気はなかった。
服を着替えて、そのあとじっと待合コーナーに座っていた。
(あれだけ、痛い目をし、あれだけ、いやな思いをし、丸一日かけて検査をしたのだから、あとで、医師から、丁寧な結果報告があるのだろう)
と思っていたのだ。
小一時問も待っていただろうか。
看護師さんが、座っている私に気がついたらしい。
「あら、もう、お帰りになっていいんですよ。何してらっしゃるの?」
「結果を伺おうと思って……」
「あら、さっき検査のとき、先生がおっしゃったじゃないですか」
「?」
七転八倒。阿鼻叫喚の私は、何を言われたのか、半年たった今でもわからない。