読売新聞2006年11月17日
東京にないぜいたく

 このところ、寸暇を縫って赤城の森にいる。
 理由は、いま一番この森が美しいからだ。庭中のカエデとドウダンが真っ赤になる。まるで、京都にいるみたいだ。赤城の山頂は、半月前にきれいだったろう。ここ標高500米の我が美術館は、11月中旬が美しい。

 23年前、私がこの土地(8250平方米)を買った時、カエデの大木は少なかった。先代の土地の所有者はむしろ、松が好きだったみたいだ。でも、何本かのカエデの大木があり、その子どもたちが1〜2米に育っていた。前の持ち主が亡くなられて、すでに6年たっていた。

 私はできる限り、カエデの子どもを切らないようにした。しかし、松の方は、できる限り切らせていただいた。
 23年たった今、どんな森になったか。ご想像いただきたい。針葉樹の森は、すっかり広葉樹の森に姿を変えた。春の芽ぶきが美しい。毎日違うパステル画を見ているみたいだ。

 夏の木陰を、ホタルが縫って飛ぶ。そして、秋。
11月中旬。私はその日を、 息を詰める思いで待ちわびる。100本を超すカエデが、それぞれの色を競う。
黄色のカエデは、毎年黄色。赤のカエデは、毎年赤にしかならないのが面白い。

 ―こんなぜいたくは、東京ではできない。

 群馬には群馬の良さがある。山には山の良さがある。そして、ちょうどこのころから、赤城の道の夜景が美しくなる。
昼間は山並みが美しくなる。時には、夜景を見るためだけに、車を走らせることがある。

 ―こんなぜいたくは、東京にはない。

 でも、たった一つ、歓迎できないことがあった。紅葉が美しくなるころから、夜が長くなることだ。
 (えっ。もう、暮れちゃうの?)というくらい、早く日が暮れる。夕方の4時ごろから暗くなる。お客さま(閉館は午後5時)が気の毒だ。そこで、あることを思いついた。
 「モミジの代わりに、電気の花を咲かせよう」
 近くのホームセンターに行って、しこたま〃イルミネーション"を買ってきた。大きな2本のクリスマスツリーが出来た。モミの木ではなくて、梅の木だけれど……。お客が帰った後は、私専用のクリスマスツリーに変わる。

 ―こんなぜいたくは、東京では絶対にできない。